コイ科 その1

採集場所で撮影したものや飼育している(していた)ものです。
※〜県=現地撮影 〜県産=水槽撮影です。

最終更新:18/5/28


コイ科の成り立ち

 コイ科を含むコイ目は骨鰾類で最初に分岐した系統と考えられています。上顎を突き出すことができるものが多い、顎や舌に歯を持たない、脂鰭がないといった特徴は特殊化の結果とも考えられますし、より原始的なネズミギス目の形質を受け継いでいるとも考えられます。
 コイ目の起源については現在の東南アジアが発祥であることは有力視されていますが、その成り立ちと分布拡大の過程については
@ローラシア大陸南岸の熱帯域に局所分布していたものが中生代終わりから新生代始めにかけアミア目やアロワナ上目のリコプテラ科などを駆逐しつつ広がった説
Aカラシン目などと同様ゴンドワナ大陸が起源で、南米などでは絶滅したがインド亜大陸などに残存していた系統がローラシアとの衝突によって広がった説
など、諸説があります。DNAの分析でそのあたりは近いうちにわかってくるでしょう。

 コイ科は最新の分類だと大きく
A.コイ亜科(かつてのプシロリンクス科、ラベオ亜科やバルブス亜科を含む)」
B.ダニオ(ラスボラ)亜科
C.Leptobarbinae亜科(レッドフィンジャイアントバルブの仲間)」
D.その他、北東アジアやヨーロッパ・北米中心に分布する群(当サイトでは便宜上"北方コイ類"と呼びます)」
の4つに分かれているようです。
Miya and Nishida(2015)などによると、これらの分岐が1.4億年前(白亜紀の初期)と推定されています。これは同じ骨鰾類ではカラシン目やデンキウナギ目の科の分岐(三畳紀後期〜ジュラ紀中期)より新しく、ナマズ目の大半の科が分岐した年代とほぼ一致します。
※年代については海外の研究では異説もあり、確定しているわけではないようです。
これらコイ科の4グループどうしの系統関係および現在のコイ科魚類でこの四大系統以前に分岐した古い系統があるかについては、まだよくわかっていません。いるとしたら東南アジア〜インドのどこかにいる可能性が高いでしょう。
 なお、分子系統と比較して現生コイ目魚類直系の化石記録が出るのはずっと新しく、中国で発見された暁新世のサッカー科魚類がおそらく最初とされています。同様にカラシン目やデンキウナギ目も化石記録と比較して分子系統から推定した分岐年代がずっと古いのですが、これらの化石が残らなかった理由としては初期の骨鰾類が小型魚中心かつ微生物の活動が活発な熱帯域のみに分布していたこと、生息地がたまたま地殻変動の大きい地域だったことなどが考えられます。

 日本に分布するコイ科魚類は移入されたものを除き、コイとフナがAの系統、それ以外はすべてDの「北方コイ類」に属します。「北方コイ類」クレードは大きく2つのサブクレードに分けられ、1つがタナゴ亜科とTanichthys属(アカヒレ:所属亜科未定)など、もう1つにはテンチ亜科、オキシガスター(クセノキプリス)亜科、カマツカ亜科、ウグイ亜科が入ります。北方コイ類に属する亜科が分岐した年代については、まだよくわかっていません。分布拡大仮説のうちAが正しいとするならば、その分岐は始新世以降の可能性が高いと思います。
 ちなみに日本のコイやフナとその近縁種はコイ科の中では割と新しい系統であり、東南アジアのプンティウスの仲間、中央アジアの裂腹魚類(Scizothorax属や近縁種)、ヨーロッパのバルブス類が現代からおよそ2〜3000万年の間という比較的短期間で適応放散したという研究結果があるようです。中にはメコンサーモンカープAaptosyax grypusのように、この放散の過程で、まるでゴリアテタイガーや顔だけ見れば甲冑魚のダンクルオステウスのような、およそコイに近縁とは思えないような進化をした魚もいます。



オキシガスター(クセノキプリス)亜科

オイカワ

Opsariichthys platypus

ハス属

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2006/12/25 京都府琵琶湖淀川水系

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2008/撮影日不明 東京都多摩川水系
二枚目右下の小さい個体はカワムツです。

きれいですがどうでもいい魚です。水槽で飼うと意外に長生きさせるのが難しかったりします。すぐに餌付くのですがカラムナリス病に異常に弱いです。4日に一度ぐらいのペースで水換えができれば1年半は飼えます。

塩焼きや唐揚げにすると食べられます。味はキスとイワシの中間のような感じです。
無理に食べるほど旨い魚ではないです。
あと、骨が堅いので丸ごと食べるには向きません。

山渓ハンディ図鑑で「コイ科の系統上重要な位置」と説明がありますが、遺伝的にハス属やカワムツ属はもっとも原始的なオキシガスター(クセノキプリス)亜科の一群に位置しています。
コイ目の魚は基本的に脂鰭を持ちませんが、本種を含むハス属やカワムツ属は仔魚期にのみ脂鰭を持ちます。稚魚への変態の過程で消失しますが、極めて稀に成魚になっても残存する個体がいます。脂鰭の起源を考えると非常に興味深い特徴です。

カワムツ

Candidia temminckii

カワムツ属

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2006/12/25 京都府琵琶湖淀川水系

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2004/撮影日不明 高知県産

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2007/10/6 東京都多摩川水系

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2018/5/27 東京都多摩川水系

多摩川水系では移入種です。現在では源流付近から中流域、平地の用水路などどこにでも見られます。原産地の西日本でもきわめて普通の魚です。
多摩地区西部の主な支流(A川、H川など)では90年代まではきわめて稀な魚でしたが、00年頃から頻繁に見られるようになりました。カワウの増加でオイカワやウグイが激減した時期と重なっており、漁協が放流した種苗に大量に混入していた可能性があります。同時期にオヤニラミやアカザも定着しています。

どこにでもいてよく釣れます。食べてもあまりおいしくありません。
よく似たヌマムツC.sieboldiiのほうが珍しいです。2枚目後ろにぼんやり写ってるのがヌマムツです。

以前はオイカワ属Zaccoに含まれていましたが、最近ヌマムツとともに別属に分けられました。
Nipponocypris属という新属が一時立てられましたが、台湾のCandidia barbataと近縁らしく、こちらに統合された模様です。おそらく分類整理のための暫定的な移動だったのでしょう(名前が適当すぎるし)。

ウグイ亜科

ウグイ

Tribolodon hakonensis

ウグイ属

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2008/撮影日不明 東京都多摩川水系

繁殖期の個体です。おそらくオスです。

降海型は40cm以上になります。高知県の中央部では冬になると汽水域や内湾で大型のウグイが群れて泳いでいるのが目視でき、またルアーなどでよく釣れます。
針がかりすると盛大にジャンプと鰓洗いをやるので小さいスズキかと間違えることがあります。そして手元に寄ってきてがっかりします^^;

一方、多摩川水系など関東地方では主たる生息域は河川上流〜中流で、成長してもサイズは20cmどまりで、10cm以下の成魚もいます。

ルアーで釣れるのですが、消化管を調べると内容物はほとんど藻類で、魚が入っていたことは今までありません。捕食するために食いつくというより、排除するために攻撃しているか、またはとりあえず何か調べているかだと考えています。

しかし、ダム湖で小赤(餌金)を生餌にしてウグイが釣れているのを見たこともあります・・・

味自体は悪くないのですが、小骨が異常に多いうえ苦くて生臭いためあまり喜ばれません。


アブラハヤ

Rhynchocypris lagowskii steindachneri

Rhynchocypris属

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2008/6/? 東京都多摩川水系
上がオス、下がメスです。

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2017/10/9 山梨県富士川水系
用水路に群れていました

悪食で誰にでも釣れる魚です。渓流から中流域下部、場合によっては河口近くまで見られます。
飼いやすいですがやや高水温に弱いです。

多摩川の在来種ですが、オイカワと同じく琵琶湖周辺にも多数分布しており、琵琶湖淀川水系産の系統が繁殖・交雑している可能性があります。
本州では岡山県まで分布しますが、琵琶湖淀川水系から西では分布がやや不連続で、岡山以外ではほとんど採集報告がありません。

小規模河川だと、タカハヤが移入されると姿を消してしまうことがあります。
タカハヤとは交雑しないようで、大学時代に調べた際、mtDNAのハプロタイプは移入産地の多摩川水系でもきれいに分かれていたと記憶しています。移植産地によっては交雑の例があるようですが、一代限りの雑種なのか、交雑個体群なのかは不明です。

ここではRhynchocypris属としていますが、ヒメハヤ属Phoxinusに入れるという説もあります。最新の研究では、ヒメハヤ属はウグイ亜科で最も原始的な系統で、それ以外のウグイ類、例えばヨーロッパのAbramisやAlburnus、日本のウグイやアブラハヤ、北米のNotropisなどのシャイナー類はすべてヒメハヤ属と同じ祖先から派生した種とされています。なお、過去にはMoroco属というのもありましたが、現在はほとんど使われません。そもそもモロコじゃないのになぜMorocoなんだろう。

タカハヤ

Rhynchocypris oxycephalus jouyi

Rhynchocypris属

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2018/7/27 東京都多摩川水系

静岡県以西の渓流域でごく普通に見られるコイ科魚類です。多摩川水系など関東の一部河川にも移入されています。多摩川水系では本流と一部支流で確認しています。本種が移入された水域では上流域の場合アブラハヤが駆逐され、中流域だと本種が駆逐されていなくなり結果的にすみ分けになっているようです。移入の経緯は不明ですが、少なくとも90年代後半には幾つかの河川で定着していた模様です。

アブラハヤとはやや小型なこと、胸ビレ付け根のオレンジがはっきりしないこと、模様が黒のマダラに見えることで区別できます。地域によってはお互い紛らわしい個体が出現しますが、多摩川水系のタカハヤ・アブラハヤは少なくとも明瞭に違います。

この魚に関してはとても深い深ーい思い出があるのですが、あまり詳しく書くと身バレの恐れがあるので避けます笑。

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